文化昆虫学の書籍情報02 - 図解昆虫俳句歳時記(蝸牛新社)

図解 昆虫俳句歳時記

図解 昆虫俳句歳時記

 昆虫学者にして俳人である著者が,日本の四季を昆虫を通して精査した歳時記.昆虫を題材にした俳句を紹介するとともに,それにまつわる話題を提供.『蕗』連載「昆虫春秋」をまとめる.

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 歳時記は,直接的に文化昆虫学に関係する書籍というわけではないが,文化昆虫学を学ぶ方々には是非読んで頂きたいジャンルの本である.俳句は日本人の自然観を反映した文学であり,日本の昆虫文化を考える上できわめて重要な位置にあるからである.

 今回紹介するのは,その題目どおり昆虫だけをとりあげた歳時記.一般的な歳時記とひと味違うのは,紹介されている内容がどこか虫屋目線であること.分量のわりには,一般的な歳時記よりも昆虫文化に関する記述が少ないように思う.一方で,昆虫の生物学や生態学に関する情報はそこそこ充実しているので,昆虫をあまり知らない俳人歌人にはよい読み物といえるのかもしれない.とはいえ,この歳時記にも昆虫にまつわる文化に関するよもやま話が掲載されている上に,例句はふんだんにもりこまれているので,文化昆虫学を学ぶ人間にとっては持っておいて損はないアイテムである.私にとって,この本の最大のサプライズは,あのモダンな作風の黛まどか氏のカブトムシの俳句が掲載されていたことだろうか.虫とは全く縁のなさそうな黛まどか氏が,カブトムシの俳句を詠むとは思っても見なかった.



(主任研究員:イケダ・カメタロウ)