昆虫好き漫画家の軌跡- 手塚治虫記念館(徒然自転車旅行記)

手塚治虫記念館へ行ってきた」

 こう書きだすと,いかにも目的をもって行ったように聞こえるかも知れないが,実際にはそうではない.実は,現在着手している報告文(論文)を仕上げる目的で,原稿をもち自転車にのって徒然旅に出たのだった.そして適当な場所をみつけて,原稿の修正をおこなう予定だった.

 わたしは論文原稿の修正をするために,この手のことをよくやる.自転車をこいでいる間にいろいろとアイデアを考えられるし,室内ではなく外の空気を吸いながらの原稿修正は,なんとなくはかどるような気がする.

 ちなみに,もうひとつの目的は徒然採集である.H県M川の上流部を目指し,ビナンカズラの生育地を探して,日本最大のハムシでも採集できれば・・・などと考えていた.もちろん,メインの目的は論文原稿の修正であったので,採集については軽く考えていた.何の下調べもしていない計画性ゼロの徒然採集旅行である.こう書くと,なんとなく「あ,キベリハムシとれたの?」と思うかもしれない.が,そうではない.実は採集でも収穫はあったのだが・・・,それについては別の機会にでも述べることとする.



 論文執筆を目的とした徒然自転車旅行.あわよくば,おもしろい昆虫を採集.H県M川の河川敷右岸を上流部へ向かって進む.これは,虫聴きサイクリングや自然観察も兼ねている.途中,アサギマダラやモンキチョウ,キタテハなどを目撃した.そのやって自然観察をしながら自転車をこぐのは,ほんとうに気持ちがよい.苦に感じることもなく,ひたすら上流部へすすんだ.

 すると,対岸に美しく大きな建物がみえた.何の建物かと思ったら,なんと宝塚歌劇団宝塚大劇場だった.位置的にいうと,家からおおむね20kmの場所に位置する.こんなところにあったのか,とわたしは思った.少し気になったので周囲を散策することにした.

 周囲を散策した.ある交差点にさしかかったとき,わたしは「手塚治虫記念館前」という交差点の標識をみた.はじめは,この標識をみても何の気にもしなかったのだが,その交差点をすぎて100mほど進んだところで,ふといくつかのキーワードを思い立った - 文化昆虫学 - 昆虫愛好家 - 手塚治虫 - ストーリー漫画のパイオニア・・・.わたしは,手塚治虫記念館に入ることとした.



 本日の徒然目的地は,交差点のすぐ近くにあった.

 宝塚市手塚治虫記念館.入場料500円.1階は常設展示で,手塚治虫のプロフィールをみることができる.やはりというか,昆虫と手塚治虫についてもふれられていた.展示の説明によると,小学5年生の時に平山修二郎の昆虫図鑑と出会い,昆虫を好きになった - 以後それを見せてくれたクラスメートと昆虫採集(主にチョウ?)にでるようになり,やがてオサムシという昆虫に出会う.オサムシは,手塚治虫ペンネームのもとになった昆虫である.

 2階には,企画展示ブース,ミュージアム・ショップ,カフェなどとともに,手塚治虫ライブラリー(図書閲覧コーナー)があったので,置いてあった漫画や本をチェックする - そして,「手塚治虫の昆虫博覧会」なるものを手にとった.わたしは,手塚治虫の漫画はいくつか読んだことがあるが,昆虫に関連する漫画は読んだことがなかった.どんな漫画がでてくるのかと思ったら,いくつかのタイトルの中に,「インセクター / 蝶道は死のにおい」を目にする.

 子供のころに無性に読みたかった漫画だった.チョウ類コレクター(というより,採集したチョウで商売をしている人)を主人公としたひとつの短編漫画である.ちょうど手にしていた執筆中の論文で,チョウ類のコレクターと文化メディア(ドラマや漫画)に関する話も扱っていたので,この漫画についてもふれておいてもよいかもしれない・・・と思い,読んでみた(内容については,とくにここでふれない).そして,同時に今回の旅の目的であった論文原稿の修正もここでおこなうのであった.



 わたしは自身の研究において,特に特定の人物を文化昆虫学の側面から研究するということをするつもりはない.しかしながら,手塚治虫のように日本の現在の昆虫文化に大きく寄与したと思われる人物については,ある程度調べる必要があるだろう.わたしは手塚治虫をそれほどしらない.以後,手塚治虫の作品にもっとふれてみることにする.


(研究主幹:シラトリ・ヨシエ)