文化昆虫学の書籍情報 01(読んでみたい一冊) - 害虫の誕生—虫からみた日本史 (ちくま新書)

害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)

害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)

 江戸時代、虫は自然発生するものだと考えられていた。そのため害虫による農業への被害はたたりとされ、それを防ぐ方法は田圃にお札を立てるという神頼みだけだった。当時はまだ、いわゆる“害虫”は存在していなかったのだ。しかし、明治、大正、昭和と近代化の過程で、“害虫”は次第に人々の手による排除の対象となっていく。日本において“害虫”がいかにして誕生したかを、科学と社会の両面から考察し、人間と自然の関係を問いなおす手がかりとなる一冊。

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 ひとびとが昆虫に対していだく感情でもっともメジャーなものは,無関心と嫌悪感である.つまり,多くの人々はどちらかというと,昆虫が嫌いなのである.このように人々が昆虫に対して否定的価値観をいだく理由のひとつには,人と昆虫とが敵対関係にあるということがあげられる.では,昆虫と人との典型的な敵対関係とは何なのであろうか?簡単に言うと,昆虫とは人間と食料や生活空間をうばいあう競争者なのである.人々の昆虫に対する敵対意識は,農耕文化の発展により増大したように思われる.つまり,農耕文化の発展は同時に農作物を食い荒らす害虫という人類の敵対者を生み出したのだ.しかしながら,日本では農耕文化がはじまってすぐに近代的な「害虫」という概念ができあがったわけではなさそうである.

 多くの人が昆虫に対して否定的価値観をいだく以上,人々と昆虫との敵対関係について検討することは文化昆虫学的に重要なテーマであり,またその解明には敵対関係の一形態である害虫観について調べることが必要不可欠だと思われる.ここに紹介する本「害虫の誕生—虫からみた日本史」には,おそらく人々の昆虫に対する否定的価値観を説明するヒントがかくされているように思われる.

 今のところ,わたしは本書を未読であるが,是非とも読んでみたい一冊として紹介させて頂いた.別の本に同著者が執筆された同内容の論文は読んだが,たいへん興味深い内容であったことをここに付け加えておく.  



(主任研究員:イケダ・カメタロウ)