ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (2) - 妄想昆虫採集とは?(後編)

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   こんちゅうさいしゅう・シリーズ


 妄想昆虫採集とは - 昆虫(ムシ)たちをモチーフに,ひとびとの創造(あるいは妄想)によって生み出された生き物たち,すなわち「妄想昆虫(※)」を採集・目撃観察するという試みです.地道な「妄想昆虫」の採集・観察活動によってえられた知識は,文化昆虫学の研究をすすめていく上で,新たなインスピレーションをあたえてくれることでしょう.


※「妄想昆虫」「妄想進化」は,当ブログ用にわたしが作った造語です.ご注意下さい.

★ 前編(ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (1)


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 「妄想昆虫」は,昆虫(ムシ)たちをモチーフに,ひとびとの創造(あるいは妄想)によって生み出された生き物たちのことで,衣類の上や商品のパッケージなど,実にさまざまな場所に「生息」しています.さて,どうしてかれらは様々な場所に適応することに成功したのでしょうか?それは,「妄想進化」によって説明されます.かれらはひとびとの心(観念)という「選択圧」によって独自の「進化」(妄想進化)をとげ,衣類の上や商品のパッケージなど,実にさまざまな場所に「適応放散」しています.


「妄想昆虫」をよく観察してみて下さい.そして実際の昆虫と比較してみて下さい.多くの場合,妄想昆虫と実際の昆虫では何かが違うはずです.例えば,特定のボディ・パーツや体全体の形状が変化していることが多く,大きさが変化したり擬人化したりしています.なかには,昆虫の翅と他の動物(人間など)とが合体したもの(すなわち,キメラ)まであるかもしれません(例えば妖精フェアリーの絵は,しばしばそのように書かれる).これは,「妄想進化」の結果であり,それぞれの生息する場所に適応した形に変化したものだと考えられます.


 「妄想進化」の結果,形状と特性が劇的に変化した例をひとつご紹介しまししょう.ただし,昆虫ではないのですが・・・.ネズミというほ乳類に属する動物がいます.多くは自然環境のなかに生息していますが,一部の種がひとびとの住居に侵入します.そしてネズミは病気を媒介したりするため,衛生害獣・不快害獣として,多くのひとびとに知れ渡っています.そのため,ネズミは「悪者」「汚い」というイメージ特性をもっているのです(※1).簡単にいうと,嫌われているということです.「ネズミ男」(ゲゲゲの鬼太郎水木しげる)などは,そのイメージ特性を受け継いでいるわけです.

 一方で,東京(千葉?)の某所にある人気テーマパークには,妄想進化の結果誕生したネズミがひとびとに囲まれながら生息しています.そう,あの「ミッキーマウス」です.ミッキーマウスは,ネズミの特徴を有しながらも,一般のネズミ種とは大きさも形状も明らかに異なり,擬人化までなされています.ミッキーマウスのこの形態はウォルトディズニーの心という選択圧による妄想進化の結果であり,ミッキーマウスは「かわいい」「美しい」というイメージ特性を手に入れて人気者となったのです.多くのひとびとが,それぞれのネズミをみて黄色い声をあげることだと思いますが,一方は恐怖や嫌悪感からくる「ネガティブ」な叫び声で,もう一方は感激に起因する「ポジティブ」な叫び声・・・ということになりそうです.しかし余談ですが,何故ヒトはネズミを嫌がるのに,ハムスターは積極的に飼育されるのでしょうか?ハムスターは病気を媒介しないということなのでしょうか?見た目はそれほど変わらないように思うのですが,不思議ですね.



 「ぼくらの妄想昆虫採集」は,次回より実践編に入ります.これまでにわたしが採集してきた「妄想昆虫」たちを実際に紹介していきます.あるいは,採集秘話(採集テクニックなど)などについても,ときどき話をしたいと思います.


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 妄想昆虫の採集・観察記録を蓄積することは,「どのような種類の昆虫が,どのような文化的側面で用いられているのか?」という文化昆虫学における根本的な問題を解明するために,大変重要なことだと思われます.あなたも,わたしたちと一緒に,「妄想昆虫」を採集しませんか?

 求!情報!



(研究員 / 普及員:ツマキ・マツキチ)



ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (3)へ続く.



※1もちろん,実際のネズミにかわいらしさを見いだして,それらが好きだという方もいます.ひとびとの価値観は実に多様です.わたしもネズミ(マウス)を見て,かわいらしいと思います.