ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (7) - タオルに舞う蝶

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 妄想昆虫採集とは - 昆虫(ムシ)たちをモチーフに,ひとびとの創造あるいは妄想によって生み出された生き物たち,すなわち「妄想昆虫(※)」を採集・目撃観察するという試みです.「妄想昆虫」は,ひとびとの心(観念)という「選択圧」によって独自の「進化(妄想進化)」をとげ,衣類の上や商品のパッケージなど,実にさまざまな場所に「適応放散」しています.さあ,一緒に「妄想昆虫」をさがしてみましょう.地道な「妄想昆虫」の採集・観察活動は,文化昆虫学の研究をすすめていく上で,新たなインスピレーションをあたえてくれることでしょう.

※ 「妄想昆虫」「妄想進化」は,当ブログ用にわたしが作った造語です.ご注意下さい.


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 さて,今回の「妄想昆虫」は,家の中で発見したものです.

 たまたま家のベランダに干してあった洗濯物を見たときに,目に飛び込んできたもの ー それは,1枚のタオルでした.そして,そのタオルには2匹(2種類)のチョウが棲みついていたのです.



 左側の個体の翅には尾状突起がみられることから,モチーフはアゲハチョウの仲間だと思われます.もう一方(右側)の個体もアゲハチョウの仲間にみえますが,前述の個体と翅の形状が異なり,尾状突起が太く短いようです.また,両個体間で斑紋パターンにも違いが見られます.前述の個体とは別種,あるいは性が異なるのでしょう.


 このタオルに棲んでいた2種類の翅の色彩は,既存のアゲハチョウのどの種類よりも派手で赤・黄・青の原色と黒色がふんだんに盛り込まれています.また,触角の形は通常のチョウ類は棍棒状なのですが,このタオルアゲハの触角は著しく長い糸状です.体の線も細く華奢に見えます.これは妄想進化の結果,通常のアゲハチョウ以上に華麗さと派手さを増し,ひとびとが使うタオルに適応したということなのでしょう.

その色彩や形態が実物と同じアゲハチョウは,タオルにはうまく「定着」できないのでしょうか?・・・単に,製造技術やコスト・パフォーマンスの問題でアゲハチョウの細やかな模様が再現できないのかもしれませんし,あるいはデザイン的にリアルなアゲハチョウは,「鱗粉 = 粉っぽさ」を連想させるなどの理由から,タオルの図柄としてひとびとに支持されないのかもしれません.

 それでもモチーフとしてのアゲハチョウは,チョウの中でもかなり人気が高いように思います.


 チョウは何かと工芸品や衣類のデザインのモチーフとして使われることが多く,文化昆虫学の分野において大きな注目をあつめています.また,様々な文化メディアに用いられるチョウのイメージがもつ意味というのは,実に多様であるといわれています.今後,本妄想昆虫採集においても多数のチョウ類が採集されることと思いますが,ある程度の数がそろった際には,その形態の多様性と適応放散について考える必要がありそうです.


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 妄想昆虫の採集・観察記録を蓄積することは,「どのような種類の昆虫が,どのような文化メディアで用いられているのか?」という文化昆虫学における根本的な問題を解明するために,大変重要なことだと思われます.あなたも,わたしたちと一緒に,「妄想昆虫」を採集しませんか?

 求!情報!



(研究員 / 普及員:ツマキ・マツキチ)


※妄想昆虫採集に関する詳細は,以下をご確認ください.

[妄想昆虫について]
  ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (1)

[妄想進化について]
  ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (2)