ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (8) 灯台もと暗し - こたつ布団に群れるトンボ

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 妄想昆虫採集とは - 昆虫(ムシ)たちをモチーフに,ひとびとの創造あるいは妄想によって生み出された生き物たち,すなわち「妄想昆虫(※)」を採集・目撃観察するという試みです.「妄想昆虫」は,ひとびとの心(観念)という「選択圧」によって独自の「進化(妄想進化)」をとげ,衣類の上や商品のパッケージなど,実にさまざまな場所に「適応放散」しています.さあ,一緒に「妄想昆虫」をさがしてみましょう.地道な「妄想昆虫」の採集・観察活動は,文化昆虫学の研究をすすめていく上で,新たなインスピレーションをあたえてくれることでしょう.

※ 「妄想昆虫」「妄想進化」は,当ブログ用にわたしが作った造語です.ご注意下さい.


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 妄想昆虫は,本当に意外なところに棲んでいます.灯台もと暗しとは,このことでしょうか?


 わたしがいつも夕食時に使っているこたつです.


 とりたてて変わった様子もないこたつですが,よく見ると・・・


 このように,こたつ布団には2種類のトンボが群生していました.このように日用品に昆虫が群生していることは,実におもしろいことなのではないかと思います.というのも,人々が昆虫に嫌悪感をいだく理由として,昆虫が群れているから(昆虫の数の多さに嫌悪感を抱く)という意見があります.映画では,人々をパニックに陥れるために,わざと昆虫を群れさせたりする手法がとられます.しかし,冬の生活にはかかせないこたつのふとんにおいては,そこに昆虫が群れていてもそのような説明は適用できないでしょう.そもそも,人々が否定的感情をいだくようなこたつぶとんを購入するとは思えませんし,商品化されることもほとんどないでしょう.おそらく,そこには昆虫が群れていても人々に否定的感情をいだかせない秘密がかくされているはずです.

 第一のポイントは,昆虫が適度にシンボライズされているということです.もし,昆虫の図柄のリアリティが極めて高いならば,多くの人々が嫌悪感をいだきうる可能性があります.適度にシンボライズし,審美的価値や象徴的価値をひきたてることで.昆虫が群れているようなこたつ布団にも嫌悪感を示さずにすむのでしょう.

 第二のポイントは,図柄に使われている昆虫がトンボであるという点です.日本においてトンボは,歴史的にも縁起のよいものとされており,典型的な文化昆虫といえます.日本を代表する文化昆虫「トンボ」に,日本を代表する冬のアイテム「こたつ布団」という組み合わせは実にマッチしているといえそうです.妄想進化学的に言えば,トンボは文化的適応度の高い昆虫といえるのかもしれません.ただし,これはあくまでも日本でのはなしだと思いますが・・・.

 しかしながら,それでも極度の昆虫恐怖症の方には,このようなこたつ布団は耐え難い存在なのかも知れませんね.


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 妄想昆虫の採集・観察記録を蓄積することは,「どのような種類の昆虫が,どのような文化メディアで用いられているのか?」という文化昆虫学における根本的な問題を解明するために,大変重要なことだと思われます.あなたも,わたしたちと一緒に,「妄想昆虫」を採集しませんか?

 求!情報!



(研究員 / 普及員:ツマキ・マツキチ)


※妄想昆虫採集に関する詳細は,以下をご確認ください.

[妄想昆虫について]

  ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (1)

[妄想進化について]

  ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (2)