民明書房と昆虫(日本文化昆虫学研究所 - 「裏」特別企画)

 書籍における昆虫の出現パターンとその役割の解析は,文化昆虫学の分野における一つのトピック(研究手段)である.この場合,多くは文学や絵本,漫画などが研究対象となり,図鑑などの生物学的な教材は通常対象には含まれない.しかし,わたしは,書籍を選り好みせずに書籍全体における昆虫の出現パターンを分野別に解析してこそ,人間の文化における昆虫の重要性を知ることができるのではないかと考える.あくまでも,図鑑や生物教材の出版というのも,全体あるいは特定の社会階層に属する人々の文化的背景にのっかったものであって,例えばそれらを解析することで一般大衆と研究者との意識の違いを検出したりできるものと思っている(はっきりとしたことはわからないが・・・).これは,Kellertの論文でも示されているように,文化昆虫学におけるひとつのトピックであることは間違いない.

 さて,前置きが長くなってしまったが,今回は(も)お遊び企画である.皆さんは,「民明書房」をご存じだろうか?宮下あきら著の『魁!!男塾』(さきがけ!!おとこじゅく)に登場する架空の出版社である.『魁!!男塾』では,しばしば民明書房の刊行物を引用するといった体裁で,物語内で語られる逸話や登場人物が用いる武術や決闘方法などを解説していた.もちろん,これらは架空の話なのだが,そのもっともらしい用語の使い回しや説明のために,民明書房の存在を信じるものが続出したという.

 そんな民明書房の刊行物にも,実はいくつかの昆虫が登場する.はなしは,すべてフィクションであるが,モチーフとなる分類群は存在するものである.では,いったいどのような分類群の昆虫が,民明書房の刊行物に「掲載」されていたのであろうか?

 答えは,ホタル,アリ,ハチである.


民明書房刊:昆虫関連書籍
(日本文化昆虫学研究所 - 「裏」特別企画)


1.莩光蛍(こんこうぼたる)…
 学名エジプティアン・ネオム・ファイアーフライ.体長約20ミリ.ナイル川流域に生息し,極めて明るい光を放ち,その集団性と知能の高さで知られる.古代エジプトでは,ガラス瓶に入れ,家庭での照明として各家庭で使用されていた.また,その特質を利用し,どんな隊形でもとれるよう調教した一群のこの蛍を夜空に放ち,戦時の軍事伝達や商店の広告看板として大いに用いた.しかし,余りの乱獲がたたり7世紀初頭には絶滅が確認された.ちなみに,現代都会の夜空を彩るネオンサインの語源は,この蛍の学名にある「ネオム」に由来する

民明書房刊『驚異の昆虫世界』より


2.甲冑軍隊蟻…
 学名(エジプティアン・キラー・アント).体長20ミリ.別名「砂漠のピラニア」といわれるほどの凶暴性と,集団性にその特徴がある百匹のこの蟻が集まれば,駱駝一頭を三分以内に白骨化してしまうという.知能も高く,飼育すれば人間の命令にも従うようになる為,古代エジプトでは麻製の手袋にこの蟻を詰め,労働力の補助としていた.ちなみに現代でも,エジプトでは忙しくて人手が欲しいとき,「蟻の手も借りたい」と表現するのは,これに源を発する.

民明書房刊『実用動物辞典』より


3.操蜂群拳…
 一般に蜂の特異な集団性は知られる所であるが,中国拳法においては三匹で刺せば猛牛さえも絶命させるという禽虎蜂(きんこばち)を調教し利用した殺人拳が編み出された.このため,これが暗殺の道具として用いられることを恐れた古代中国時の権力者達は,蜂を飼うことを厳禁した.

民明書房刊『浮虻流(ふあぶる)昆虫記』より



(研究主幹:シラトリ・ヨシエ)