ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (3) - みかん箱のナナホシテントウムシモドキ
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妄想昆虫採集とは - 昆虫(ムシ)たちをモチーフに,ひとびとの創造あるいは妄想によって生み出された生き物たち,すなわち「妄想昆虫(※)」を採集・目撃観察するという試みです.地道な「妄想昆虫」の採集・観察活動は,文化昆虫学の研究をすすめていく上で,新たなインスピレーションをあたえてくれることでしょう.
「妄想昆虫」は,ひとびとの心(観念)という「選択圧」によって独自の「進化(妄想進化)」をとげ,衣類の上や商品のパッケージなど,実にさまざまな場所に「適応放散」しています.さあ,一緒に「妄想昆虫」をさがしてみましょう.
※ 「妄想昆虫」「妄想進化」は,当ブログ用にわたしが作った造語です.ご注意下さい.
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さて,今回の「妄想昆虫」は,家の中で発見したものです.実は,今回紹介する昆虫こそが,わたしが採集した妄想昆虫第一号です.つまり,妄想昆虫採集をはじめるきっかけになったものです
まずは,この段ボール箱をご覧ください.
一見,何の変哲もないただの「みかん箱」なのですが・・・
でかでかと「てんとうむし」と書かれています.
そしてよく見ると,なにやらまるい形のシンボルマークが・・・
このみかん箱にはテントウムシが棲んでいました.分類学的根拠に基づくものではありませんが,テントウムシとはっきりわかります.見たところ,かなりシンボル化が進んでいるようです.
斑紋はまるく,その数は7つあります.・・・ということは,ナナホシテントウなのでしょうか?
いやいや,斑紋の数だけでなく,配列の配列もテントウムシの種同定には重要です.もっとも,配列を見てもなんとなくナナホシテントウに見えるような気がしますが・・・.
では,本物のナナホシテントウと比較してみましょう.
「!!!」
頭部が本物より大きく表現されており,このシンボル化されたみかん箱に棲むテントウムシは本物とは形態的に異なるのですが,斑紋の配列は本家のナナホシテントウとほとんど同じです.多分,このシンボルのモチーフはナナホシテントウなのでしょう.
しかし,何故ナナホシテントウなのでしょうか?もっとも身近に生息するテントウムシで,知名度が高いからと言うことなのかもしれません.ミカンでテントウムシといえば,柑橘類の害虫であるイセリアカイガラムシを捕食するベダリアテントウの方が適任のような気もします.ナナホシテントウはどちらかというと樹上より草原に多いように思えます.しかしながら,生産者の思いがベダリアテントウあったとしても,多くの消費者はベダリアテントウを知らないでしょう.あとはシンボル化しやすいかどうかという点も考えなければなりません(ベダリアテントウなら,可能だと思いますが・・・).
友人の指摘ですが,この箱に入っていたみかんの生産者はテントウムシに並ならぬ思い入れがあるのかもしれませんね.というのも,この箱のテントウムシのシンボルがリアルというだけでなく,この箱にはものすごく大きな字で「てんとうむし」と表記されています.一方で,みかんという言葉はものすごく小さな字で表記されています.つまり,この箱で最も強調されている言葉は,「みかん」ではなく「てんとうむし」であり,ぱっと見ただけではこの箱がミカン箱であることを判断することができないのです.
テントウムシはよくよくヒトに好かれる昆虫のようで,ひとびとの文化とのかかわりはきわめて強いようです.アブラムシを捕食する生物農薬として重要だからなのでしょうか?・・・実際には,捕食性の種だけでなく植食性や菌食性の種もいますし,植食性種には農作物を食い荒らすものもいるのですけれどもね.もっとも捕食性種が多く,その一部の種が極めてアブラムシやカイガラムシの防除に有益な捕食者であるのは確かですが・・・.
今回紹介したみかん箱上のテントウムシだけでなく,ほかにもテントウムシのイメージが用いられた日用品を色々と確認しています.今後このブログでテントウムシは常連となるでしょう.文化昆虫学の観点からテントウムシに注目する必要がありそうです.
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妄想昆虫の採集・観察記録を蓄積することは,「どのような種類の昆虫が,どのような文化メディアで用いられているのか?」という文化昆虫学における根本的な問題を解明するために,大変重要なことだと思われます.あなたも,わたしたちと一緒に,「妄想昆虫」を採集しませんか?
求!情報!
(研究員 / 普及員:ツマキ・マツキチ)
★ ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (4)へ続く.
※妄想昆虫採集に関する詳細は,以下をご確認ください.
[妄想昆虫について]
ぼくらの妄想昆虫採集記 [文化昆虫学フィールド・レポート] (1)
[妄想進化について]